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東京地方裁判所 平成5年(ワ)15463号 判決

原告

児玉研一

ほか一名

被告

立川運輸有限会社

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

一  被告は、原告児玉研一に対し金三一八九万〇二八九円、原告児玉よ志美に対し金三〇五九万〇二八九円及びこれらに対する平成四年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告の負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、国道二七号線(片側一車線)上においてタンクローリー車と同車に対向して走行してきた普通乗用車とが衝突し、普通乗用車の運転者が死亡したことから、その相続人が人損について賠償を求めた事案である。

二  争いのない事実

1  本件交通事故の発生

事故の日時 平成四年三月三〇日午前五時一〇分ころ

事故の場所 福井県敦賀市市野々一九―八―六先の国道二七号線上

加害車 向山清明(以下、「向山」という。加害車両運転)

加害車両 大型貨物自動車(タンクローリー。福井八八か一三三四)

被害車 児玉卓也(以下「卓也」という。)。被害車両を運転

被害車両 普通乗用自動車(練馬五三の・一二一)

事故の態様 国道二七号線を敦賀街道方面に向かつて進行中の加害車両の右前部と小浜方面に向かつて進行中の被害車両が衝突したが、その態様については争いがある。

事故の結果 卓也は、本件事故により当日死亡した。

2  相続関係

卓也は原告らの長男であり、原告らは、卓也を相続した。

3  責任原因

被告は、加害車両の保有者であり、向山は被告の従業員である。

4  損害の填補

原告らは、自賠責保険から合計二〇八一万九八四〇円(原告一人当たり一〇四〇万九九二〇円)円の填補を受けた。

三  本件の争点

1  本件事故の態様及び免責・過失相殺

(一) 原告らの主張

卓也が国道二七号線の小浜方面に向かう車線内に被害車両を進行中に、敦賀街道方面に向かつて制限速度を二五ないし三〇キロメートル時超過して進行していた加害車両がセンターラインを越えて走行したため、本件事故が発生した。

(二) 被告の主張

卓也が国道二七号線のセンターラインを越え、敦賀街道方面に向かう車線(卓也にとつて対向車線)とその路側帯をまたぐような形で進行した後、加害車両の直前を斜めに走行し、自車線である小浜方面に向かう車線に戻ろうとした結果、本件事故が発生した。向山は、被害車両の右異常な走行に気づき、パツシングをし、急制動をしたが間に合わず衝突したのであつて、本件事故は、卓也の一方的な過失に基づくから、免責を主張する。

仮に、向山に何らかの過失があつたとしても、右の経緯から大幅な過失相殺を主張する。

2  損害額

原告らは、本件事故により次の損害を受けたと主張する。

(一) 逸失利益(卓也分) 五六四〇万〇四一八円

卓也は昭和四二年一〇月に生まれ、大学卒業後に飛島建設株式会社に就職したところ、死亡時に二四歳であり六七歳に達するまで四三年間稼働が可能であるはずであるから、平成三年度賃金センサス大学卒男子労働者年収六四二万八八〇〇円を基礎として、生活費控除を五割とし、ライプニツツ方式により中間利息を控除すると、本件事故による逸失利益は右金額となる。

計算 642万8800×0.5×17.5459=5640万0418

(二) 慰謝料(卓也分) 二〇〇〇万〇〇〇〇円

死亡による慰謝料として二〇〇〇万円が相当である。

(三) 葬儀費(原告児玉研一分) 一二〇万〇〇〇〇円

(四) 弁護士費用 五七〇万〇〇〇〇円

原告児玉研一分二九〇万円、原告児玉よ志美分二八〇万円である。

被告は、右主張を争う。

第三争点に対する判断

一  本件事故の態様等について

1  乙一、六、七、一〇、証人向山によれば、国道二七号線の本件事故現場付近の制限速度は時速四〇キロメートルであつたが、向山は、加害車両に約一〇トンのバラセメントを積載し、時速六五ないし七〇キロメートルで敦賀街道方面に向かつて進行していたこと、本件事故当時は未明であつてライトの点灯が必要であり、また、小雨が降つていて、本件事故の約一時間二〇分後には北陸自動車道が霧のため閉鎖される状況であつたこと、加害車両は少なくとも五〇センチメートルほどセンターラインを越えたところで被害車両と衝突していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右の事実から、原告らは、前示のとおり、本件事故は加害車両側の過失により生じたものと主張する。他方、被告は、前示のとおり本件事故は卓也の一方的な過失に基づくものと主張し、本件事故の唯一の目撃証人である証人向山は、これに沿い、同人は、国道二七号線を敦賀街道方面に向かつて加害車両を運転中、約五三・五メートル先の自車線とその左側にある路側帯をまたぐような位置に被害車両のライトが点灯しているのに気がつき、パツシングをし、急制動をするとともに、加害車両のハンドルを右に切つたが、被害車両がその自車線である小浜方面に向かう車線に戻るため、加害車両の直前を斜めに横切つたため、本件事故が発生したと供述する。

2  よつて、検討すると、甲五、六(いずれも現場付近の写真)、乙六、七(いずれも実況見分調書)によれば、国道二七号線は、本件事故現場付近において加害車両にとつて緩やかに左側にカーブしていること、加害車両の右側前輪が本件事故直前に残したブレーキ痕は、センターライン上において始まり、そのまま一直線で約一五メートル進み、その終了点ではセンターラインを五〇センチメートルほど越えていること、加害車両の左側前輪の残したブレーキ痕は、右側ブレーキ痕よりも約五メートル遅れて始まるが、その終了点は右側ブレーキ痕と一致し、なお、その終了点間近から右側に湾曲していること、加害車両前輪は、衝突後に左右とも右側に約九〇度曲がつていること、加害車両の衝突部位は前部の右側であること、被害車両は、衝突後、運転席を中心に右側の前輪から後輪にかけてのボデイ部分の損壊が著しく、また、車両の全体が右に屈曲していること、現場付近に状況によれば、被害車両が加害車両との衝突後電柱等と衝突した痕跡がないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実及び前示の認定事実によれば、〈1〉加害車両は時速六五ないし七〇キロメートルで緩やかに左側にカーブする道路を進行していることから、空走距離も考慮すると、同車両の右側前輪がセンターラインを越える前から急制動を開始していること、〈2〉左側前輪の残したブレーキ痕の右側への湾曲状況や衝突後の加害車両の左右前輪の状況からすれば、加害車両は、事故前に右側に急転把していること、〈3〉被害車両の右損傷状況によれば、加害車両との衝突部位は右側側面であり、正面衝突したものではないことがいずれも推認され、これら客観的な認定事実は、いずれも前記向山の供述に沿うものであり、これに矛盾するものはない。そうすると、本件事故は、被告が主張し、向山が供述する前示の態様で生じたものと認めるのが相当である。

3  被告は、免責を主張するが、前認定のとおり、向山は、ライトの点灯が必要であり、かつ、小雨が降つている状況の下で、制限速度を二五ないし三〇キロメートル時超過して加害車両を走行させていたのであり、加害車両に約一〇トンのバラセメントを積載しており衝突した場合における破壊力の大きさからして細心の注意をもつて運転することが要求されることや、左に緩やかにカーブしているのに速度を緩めた形跡がないことも斟酌すると、向山の右速度違反も本件事故の原因となつているものといわざるを得ず、被告の右主張に理由がない。

4  次に、被告は、過失相殺を主張するところ、本件全証拠によるも、卓也が加害車両側の車線とその路側帯をまたぐような位置で被害車両を運転した原因を知ることができないが、向山の前示状況下における速度違反と卓也のセンターラインオーバーないしは加害車両直前の進行を比較すると、その過失割合は、向山につき二割五分、卓也につき七割五分とするのが相当である。乙二によれば、原告児玉研一と被告との間で、加害車両の修理代金や被告の休業損害を同原告が全面的に負担することで念書が交わされていることが認められるが、同原告本人によれば、同原告は、卓也が一方的に悪かつたとの被告側の説明を受けて、本件事故に関する実況見分調書等の資料を見ないままこれを受諾したことが明らかであつて、右判断の妨げとなるものではない。

二  原告らの損害額・損害の填補について

甲一、乙四、五、原告児玉研一本人によれば、卓也は、原告らの長男として昭和四二年一〇月二三日に生まれ、大学卒業後に飛島建設株式会社に就職したこと、同会社の福井支店に勤務し、敦賀にある工事現場に向かう途中で本件事故に遇つたこと、同人は、死亡時に二四歳であり、平成三年に同会社から二九三万五五七五円の年収を得ていたことが認められる。右事実からすれば、本件事故により、原告ら主張のとおり、卓也は逸失利益五六四〇万〇四一八円、慰謝料二〇〇〇万円の合計七六四〇万〇四一八円の損害を、また、原告児玉研一は卓也の葬儀費一二〇万〇〇〇〇円の損害をそれぞれ受けたことを推認するのに難くはないというべきである。

しかしながら、仮に、本件事故により右原告ら主張の損害が発生し、各原告が卓也分の二分の一をそれぞれ相続したとしても、前示過失相殺後の損害の額は、原告児玉研一につき九八五万〇〇五二円、原告児玉よ志美につき九五五万〇〇五二円となるところ、原告らが自賠責保険から合計二〇八一万九八四〇円(原告一人当たり一〇四〇万九九二〇円)の填補を受けたことは当事者間に争いがないから、原告らは、その主張し得る損害額のすべてにつき填補を受けていることとなる。

第四結論

以上の次第であるから、原告らの本訴請求は、その余を判断するまでもなく理由がないからいずれも棄却すべきである。

(裁判官 南敏文)

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